工場の各種ルールは製品の品質や作業効率、従業員の安全を支える重要な役割を担っています。「服装ルール」も、単なる身だしなみ以上の意味を持つものです。
この記事では、工場の服装ルールが重要な理由から、業種別のリスクとポイント、快適に着こなすコツまで詳しく解説します。工場で働く人や管理職の方、初めて工場勤務を考えている方はぜひ参考にしてください。
工場の服装ルールが必要な理由を、品質・作業効率・安全の観点から解説します。
服装の乱れは、次のような品質低下のリスクにつながります。
異物混入
汚染
破損・故障
たとえば、精密機械の製造では、汚れや異物、あるいは静電気が製品を故障させることがあります。食品や製薬工場では、毛髪の落下による異物混入や肌の常在菌による汚染は厳禁です。作業服を清潔に保つことはもちろん、作業内容に応じた衣服の機能も求められます。
服装の選定から着用・管理ルールまで厳密に設定することは、上記のようなリスクを回避し、商品・製品の品質を維持するために重要です。
次のような懸念がある服装は、作業効率を低下させます。
立ち仕事の多い工場では、従業員の疲労や不快感が作業効率に直結します。滑りやすい靴なども移動のスピードや安全性を低下させる要因です。また、作業に必要な物を携帯するのに十分な収納がない場合、荷物を取りに行くための労力や時間にムダが生じます。
わずかな時間や体力のロスでも積み重なれば大きな損失につながります。作業内容や取り扱う製品に合わせた服装は、作業効率を高めるために重要です。
服装ルールは従業員の安全を守る意味でも設定されています。服装の乱れが関連する事故には次のようなものがあります。
動きやすさは確保しつつ、不必要なもたつきのない服、フィット感のある服が工場の服装の基本です。また、火傷や薬品事故、ケガのリスクがある工場では、肌の露出を抑えることも求められます。
その他、転倒を防ぐためのグリップが効いた靴底や、落下物の衝撃に耐えられる安全靴なども工場の服装として重視されるポイントです。
ここでは、服装ルールを設定しない、または服装ルールを守らないことによるリスクと服装のポイントを業種別で解説します。
製品へのリスクと従業員の安全に関わるリスクに分けて、服装のポイントを解説します。
基板・配線等を内蔵する機械や精密機器は、静電気で故障することがあります。静電気が電子部品を破壊する「静電破壊(ESD破壊)」のリスクです。このリスクを低減するには、制電(帯電防止)機能が付加された作業着の着用が求められます。
また、ファスナーやボタンなどの硬いパーツが製品と接触すると、キズや破損につながることもあるため要注意です。パーツが製造機械に落下すれば、不具合が起こって不良品が生まれたり、製造ラインが停止したりする恐れもあります。
帯電防止のJIS規格(JIS T 8118)に適合している作業服であれば、金属パーツが露出しないように設計されているため、これらのリスクを低減できます。
製造・組み立て工場では、機械・工具との接触や飛来物によって、切り傷や火傷を負う恐れもあります。裂け・摩擦に強く、耐熱性のある生地(高密度織、綿など)を採用した長袖・長ズボンの作業着の着用が基本です。
ただし、肌を覆えれば何でも良いというわけではありません。服にもたつきがあると、プレスや回転する機械に挟まれたり、巻き込まれたりしてケガをする恐れがあるからです。ボディラインにフィットするシルエットの作業服が望ましいとされています。
重量物を取り扱う場合には、落としたときの足のケガのリスクを考慮して、先芯(つま先のガード)が入った安全靴を着用しましょう。
製品へのリスクと従業員の安全に関わるリスクに分けて、服装のポイントを解説します。
製鉄等の金属の製造では、原材料や設備への異物混入が品質低下につながる恐れがあります。強度の低下などを引き起こせば出荷停止やリコールとなるため、企業への損害も甚大です。製造用の機械に不具合が出れば、生産ラインが停止する可能性もあります。
また、溶接作業では繊維片や埃が金属の表面に付着していると、溶接不良になります。破れやほつれがなく清潔な作業着の着用が大切です。
金属・鉄鋼製造工場では金属の溶融・溶接作業などがおこなわれるため、室温が高くなりがちです。火傷を防ぐためには長袖・長ズボンの着用が必須ですが、高通気生地など熱中症への対策も重視する必要があります。
また、揮発性・引火性の高い物質を扱う場合は、静電気によって引火事故に発展することもあるため、制電機能も重視しましょう。
なお、ポリエステル100%の作業服はおすすめできません。熱によって溶けることがあり、皮膚に付着すると火傷を重症化させる恐れがあるからです。以下の記事では、難燃・防炎・耐熱素材を解説しています。ぜひご覧ください。
製品へのリスクと従業員の安全に関わるリスクに分けて、服装のポイントを解説します。
食品・化粧品・製薬工場では衛生に関するルールが厳格に決められています。次のような汚染や異物混入を防ぐためです。
これらのリスクを防ぐため、十分な手洗いと手袋・帽子・マスクの着用、金属パーツの露出がない衛生服の着用などがルール化されています。
製品の衛生を保つためだけでなく、調理や薬品による火傷のリスクがあるため、基本的には長袖・長ズボンを着用します。また、水・油・粉類を扱う工場では床が滑りやすく、転倒のリスクがあるため、グリップ力(耐滑性)のある靴の着用も重要です。
食品工場の高温作業場においては、熱中症対策も求められます。食品衛生用作業服は高温作業場用・常温作業場用・低温作業場用に分かれているため、環境に合うものを選びましょう。
次の記事では食品工場の服装ルールと衣服の種類ごとのポイント、服装以外の身だしなみまで詳しく解説しています。ぜひご覧ください。
製品へのリスクと従業員の安全に関わるリスクに分けて、服装のポイントを解説します。
プラスチック製品や布製品などの日用品等の製造工場では、製品の品質低下や製造機械の不具合につながる異物混入に注意が必要です。
また、繊維を扱う工場の場合は、静電気で引火する可能性があります。作業着を選ぶときは、ウールとアクリルなどの帯電しやすい素材の組み合わせは避けましょう。制電作業着が最適です。
次の記事では静電気を抑える方法を解説しているので、ぜひ参考にしてください。
衣服のもたつきは機械等への巻き込み、ひっかけなどによる転倒やケガにつながります。フィットするシルエットの作業着を選ぶことが大切です。
また、工場の環境によっては空調が十分に効かないこともあるため、暑さ対策・寒さ対策も考慮しましょう。接触冷感や保温機能のあるインナーが便利です。
製品へのリスクと従業員の安全に関わるリスクに分けて、服装のポイントを解説します。
物流倉庫では製品が包装された状態が基本であるため、製造の現場と比べると、服装が商品に与える影響は大きくありません。
ただし、指輪や衣服の金属パーツがパッケージや製品を傷つけることがあるため、身だしなみには要注意です。また、ピッキングの際に私物を誤って梱包しないよう、メモ帳などを持ち運ぶときはフラップやファスナー付きのポケットを活用しましょう。
物流倉庫では検品・ピッキング・梱包・積み込みなど、移動と大きな動作が多いため動きやすい作業服が適しています。ストレッチ性のある生地を選ぶと、疲労感やストレスを軽減できるでしょう。クッション性のある靴を選ぶこともポイントです。
また、広い倉庫では空調が十分に効いていないこともあるため、夏場は空調服(ファン付き作業着)、冬場は防寒着を着用するなど、気温に合わせて選ぶことで体力の低下を防げます。
工場の服装では安全性や衛生が優先になるため、快適性を保つには工夫が必要な場合があります。ここでは、快適性アップのためのコツを3つ紹介します。
暑さ対策に役立つ服装の性能・機能には次のようなものがあります。
通気性が高い生地であれば、熱や蒸れを逃がしやすいため快適に過ごしやすくなります。ひんやり感のある接触冷感素材や、気化熱の作用で体表面の熱を奪える吸汗速乾も夏や高温作業場向けです。
ジャケットやパンツの新調が難しい場合は、上記のような性能・機能を備えた清涼インナーを検討してみましょう。
なお、暑さ対策としては空調服(ファン付き作業着)も有用ですが、埃や飛沫が舞いやすいことや火の粉が衣服内に侵入するリスクがあるため、工場では認められていない場合があります。
寒さ対策に役立つ衣服の性能・機能には次のようなものがあります。
保温
反射熱の利用
防風
保温はダウンやフリース、ウールなどの空気を抱え込みやすい素材を使い、外気と肌の間に層を作ることで断熱する仕組みです。また、体温を利用した反射熱で温かさを保つ、アルミ素材を使用したウェアもあります。
寒さ対策では防風性も重要です。首元・袖口・裾などに絞りがあるウェアなら、外気の侵入を防げるため体温を維持しやすくなります。
ジャケットやパンツの新調が難しい場合は、保温インナーの着用を検討してみましょう。
経年劣化および洗濯しても落としきれない埃や皮脂の蓄積が、次のような性能を低下させる可能性があります。
通気性
吸汗速乾
撥水性
耐摩耗性(耐久性)
高機能な衣服でも経年劣化によって性能は落ちるため、定期的な交換が必要です。工場における作業服の耐用年数の目安は1~3年、高温な環境下では1年未満といわれています。
長く使用するためには、洗濯とクリーニングも重要です。個人管理が必要な場合は使用のたびに洗濯し、定期的にクリーニングに出しましょう。
ただし、通気性・吸汗性・撥水性は柔軟剤との相性が良くありません。繊維をコーティングしてしまうため、繊維本来の機能を発揮しづらくなるからです。
なお、食品・化粧品・製薬工場においては消毒が必要なケースが多いため、基本的には工場がユニフォームを回収して洗浄します。
服装以外の身だしなみも衛生と安全を守るために重要です。3つのポイントを解説します。
長い髪は機械への巻き込みや落下による異物混入リスクがあるため、一つに束ねて帽子の中に格納するなどの対策が求められます。
とくに食品・化粧品・製薬工場では髪に関するルールが厳格で、ヘアネットやフード付き衛生帽などで髪の露出を完全に防ぐよう指定されています。
指輪やピアス、ネックレスなどのアクセサリーは原則禁止です。アクセサリーの装着には次のようなリスクがあります。
製品との接触によるキズ、破損
欠けや落下による異物混入
薄手の手袋を突き破る(指輪の場合)
高熱が伝わることによる火傷
製品への影響だけでなく従業員の安全の面でも危険があるため、作業に入るときは外し、ロッカー等で保管しましょう。
手のひら側から見たときに、爪が指からはみ出さない長さに切り揃えましょう。長い爪には次のようなリスクがあります。
爪と指の間に溜まった雑菌による汚染
薄手の手袋を突き破る
欠けによる異物混入
作業中に爪が折れるなどのケガ
これらのリスクを低減するために爪は短く切り、爪と指の間まで十分に洗浄しましょう。また、マニキュアやジェルネイル等のネイルアートも多くの工場で禁止されています。
工場の服装ルールは製品のクオリティ・作業効率・従業員の安全を守るために重要なものです。細かなルールにもそれぞれ意味があるため、自己判断で妥協することなく遵守しましょう。わずかな油断が大きなトラブルに発展する恐れがあります。
ただし、工場で支給する衣服や小物は快適性よりも衛生や安全性を重視して選ばれます。気温や湿度の感じ方には個人差があるため、快適性が劣ると感じた場合はインナーで調整するのがおすすめです。
今回ご紹介した服装ルールや身だしなみのポイント、各種アイテムをぜひ参考にしてください。