食品工場では基本的に服装ルールが決められています。従業員全員がルールにしたがうことで、食品の衛生を保つためです。しかし、なんとなくのイメージはあっても、細かなルールやその意味までは知らないという人もいるのではないでしょうか。
そこで本記事では、食品工場に服装ルールがある理由から具体的なポイントまで、イラストつきで詳しく解説します。後半では暑さ対策・寒さ対策に役立つアイテムや服装以外の身だしなみのポイントなども紹介するので、ぜひ参考にしてください。
食品工場で服装ルールが設けられる理由は、以下のようなリスクを避けるためです。
細菌・ウイルスによる食品の汚染
食品・包装への異物混入
機械類への巻き込み事故
転倒・落下事故
細菌・ウイルスによる汚染や異物混入は、食中毒をはじめとする重大な事件に発展するリスクがあります。万が一の事態が生じた場合、商品回収や廃棄にかかるコストも甚大です。企業のブランディング、存続という観点から考えても服装ルールの重要性がわかります。
また、製造する食品の衛生を保つためだけでなく、従業員の安全を守る意味でも服装ルールは重要です。服装ルールによって作業効率が高まることもあるため、結果的に従業員の待遇向上にもつながります。
食品工場では汚れを視認しやすい白色の衣服が基本です。その他にも、さまざまなルールがあります。基本的な服装ルールは次のとおりです。
髪の毛を帽子から出さない(隙間を作らない)
インナーキャップから耳を出さない
マスクは鼻まで覆う
汚れやほつれのない作業着を着用する
ファスナーはきちんと閉める
インナーシャツはズボンの中に入れる
作業内容に応じた素材の手袋を着用する
洗浄・消毒した靴を履く
以下では、衣服・アイテムの種類別のポイントを解説します。
食品工場では髪の露出を完全に防ぎ、肌の露出は最小限に抑えることが求められるため、ヘアネットやインナーキャップが着いた食品衛生用帽子が選ばれます。
とくに衛生管理を厳重にすべき作業では、首までカバーできるものがベストです。理想は、マスクを着用したときに目の周りのみが露出した状態とされています。
なお、食品衛生用帽子の中には、眼鏡をかけても耳周りに隙間ができないように工夫されたものもあります。
くしゃみや会話だけでなく、鼻毛の落下や呼吸による飛沫から食品を守るために、マスクの着用は必須です。鼻から顎(あご)までしっかり覆えるものが基本で、ろ過率99%以上のものが選ばれます。
また、鼻部分を密着させるためにワイヤー入りを選ぶことも重要なポイントです。マスクの両端は食品衛生用帽子の中に入れ、肌の露出を最小限に抑えましょう。
次のような構造の作業服(調理衣)が食品製造工場に適しています。
体毛の落下を防ぐ絞りのある袖
留め具の破損・落下を防ぐ比翼仕立ての合わせ
パンツインできるインナー付き
屈んでも腰が露出しない着丈
髪の毛だけでなく、体毛も異物混入につながるため上衣の袖には絞りが着いているものが望ましいとされています。
ファスナーやボタンなどのパーツの破損による異物混入のリスクを低減するためには、前合わせが比翼仕立てのものがベストです。パーツが露出しないため、破損や落下を防ぎやすくなります。
また、インナーや着丈を含めて肌の露出を最低限に抑える構造であることも重要です。人の肌には黄色ブドウ球菌をはじめとする常在細菌がいます。健康な人には無害な菌ですが、食品を汚染して繁殖すると食中毒を引き起こすため注意が必要です。
食品工場で着用するズボンは、次のような構造のものが適しています。
体毛落下防止の絞りがある裾
巻き込み事故を防止するフィット感
転倒・落下防止の動きやすい生地とゆとり
ポケットは最小限(面ファスナー付き)
ズボンも上衣と同様に体毛の落下を防ぐ必要があるため、裾に絞りがあるものが推奨されています。また、筒が太すぎると機械に巻き込む恐れがあるため、フィット感のあるシルエットであることも重要です。
ただし、タイトすぎると動きづらく、転倒や高所からの落下等のリスクが高まるため、適度なゆとりやストレッチ性のある生地であることも求められます。
なお、ポケットは付いていないものがベストです。必携の物がありポケットが必要な場合でも、中身の落下を防止するために面ファスナー(※)付きが推奨されます。
(※)面ファスナー:一般的にマジックテープと呼ばれるもの。マジックテープは株式会社クラレの登録商標。
超耐滑作業靴 ハイグリップ H-100C 男女兼用 ミドリ安全
靴は床に付着した汚れや菌を運びやすいため、洗浄・消毒処理ができるものが選ばれます。その他、次のようなポイントも重視されます。
水・油・粉で滑りにくい耐滑性のソール
汚れがつまりにくい靴底のパターン(凹凸)
耐水性と通気性の両立
長時間の作業でも疲れにくいクッション性
洗浄・消毒できる素材であることを前提に、動きやすく、不快感・疲労感を軽減できる靴が適しています。靴底の凹凸は耐滑性(グリップ力)が高いものや、汚れが詰まりにくいものなどさまざまなので、作業内容や環境に応じて使い分けましょう。
なお、水の使用量が多い作業場では長靴が選ばれますが、それ以外の場所では短靴が選ばれる傾向にあります。短靴の方が水や汚れが侵入しやすいため、衛生意識が高まることが理由です。
食品衛生用の手袋は使い捨てタイプが基本です。作業内容に応じて素材の異なる手袋を使い分けます。素材ごとの性質は次のとおりです。
ニトリルは高性能で細かな作業に向いているため、繊細な作業が必要な魚の下ごしらえや盛り付けなどに向いています。デメリットは価格が高いことです。なお、ニトリルの手袋は医療現場や機械作業、塗装業などでも使われます。
ラテックスの大きなメリットはフィット感です。手になじみやすく、素手の感覚で作業ができるためストレスを軽減できます。ただし、ラテックスアレルギーの問題があるため万人向けではありません。
ポリエチレンは耐油性と耐薬品性に優れ、価格が安い素材です。伸縮性(フィット感)がない分着脱しやすいので、ソースの汚れなどで頻繁に交換する必要がある作業に向いています。ただし、強度は弱く快適性に劣るため、長時間の作業には適していません。
なお、使い捨て手袋の素材には他にもTPE(ポリオレフィン)やPVC(塩化ビニール)などもありますが、食品への使用は不可の場合が多いため、今回は取り上げませんでした。
続いて、基本的な服装ルール以外の服装選びのポイントを4つに分けて解説します。
食品工場向けの衛生服の中には、制電機能を持つ商品があります。静電気による埃や髪の毛の付着を抑えられるため、異物混入リスクの低減に有用です。
また、制電機能は粉類を取り扱う現場にも向いています。粉が付着しにくいので、快適性を保てるでしょう。
食品製造では汚染区域と衛生区域を分ける「ゾーニング」が重視されます。
汚染区域:原材料の搬入口、廃棄物置き場など
準清潔区(衛生区域):下処理室、加熱湿など
清潔区(衛生区域):冷却室、包装場など
汚染区域と衛生区域を従業員が行き来すると交差汚染が生じます。区域によって服装の色を分けることで、異なる色を着た従業員の侵入を防ぎやすくなるでしょう。カラーバリエーションが豊富なユニフォームなら、統一感を保ちつつ服装のゾーニングが可能になります。
冬場の常温作業場や冷蔵・冷凍室で作業する場合は寒さ対策が大切です。
低温作業場向けの作業服(ジャンパー・パンツ)を着用し、必要に応じて保温インナーや防寒グッズを取り入れましょう。ただし、インナーや防寒グッズの使用は向上の服装ルールに従うことが前提です。
夏場の常温作業場や高温になる調理場などでは、熱中症の危険があるため暑さ対策が重要です。通気性や清涼感を重視して設計された高温作業場向けの作業服を選びましょう。その他、清涼インナーや保冷ベストも役立ちます。
なお、空調服(ファン付き作業着)は暑さ対策としては有用ですが、風が出るため食品衛生の観点では適さないケースが少なくありません。工場の服装ルールを確認しましょう。
食品工場で重視される身だしなみを次のポイントに分けて解説します。
爪を短く切る
髪が出ないようにまとめる
香水や香りの強い柔軟剤を避ける
アクセサリーを身に着けない
メイク・ネイルは控える
休憩・手洗い時は着替える
手に傷があるときは調理作業を担当しない
爪と皮膚の間には菌が溜まりやすいため、爪を短く切ってしっかり洗うことが重要です。また、爪が長いと手袋を突き破ったり、欠けて食品に混入したりします。手の平から見て、爪が見えない長さに切りましょう。
食品衛生用帽子を被る場合でも、長髪の人は髪をまとめましょう。帽子の中におさめやすく、落下も抑えられます。食品衛生用帽子と作業服を着用した後はローラーをかけ、髪の毛の付着を取ることも大切です。
香水や柔軟剤の強い香りは、食品に移ることがあるため禁止されている食品工場がほとんどです。風味の問題だけでなく、香り成分によって食品が汚染されたり、アレルギー物質が付着したりする恐れもあります。
同様の理由で、香りの強い整髪料や制汗剤の使用も基本的にNGです。使用者本人は香りに慣れており、強いニオイに気づかないこともあるため、食品工場で勤務するときはより一層注意をはらいましょう。
ネックレスやピアス、指輪などのアクセサリーの着用も基本的にNGです。落下や破損が異物混入につながります。なお、結婚指輪であっても作業場では外しましょう。指輪は雑菌が溜まりやすいほか、手袋を傷つける可能性もあるからです。
メイクやネイルも異物混入や香り移りの可能性があるため、基本的にNGです。とくに、アイメイクやファンデーションのパウダー、剥げたネイルの破片などは目視では発見しづらいため、商品出荷までに気づかない恐れがあります。
万が一、食品の風味や安全性に問題が出た場合、同じロットで製造した商品を回収・廃棄することになるため、注意しましょう。
休憩やトイレの際は、作業場に入る服とは別のものに着替えましょう。作業場に戻るときは再び作業服に着替え、十分な手洗いと消毒をおこなう必要があります。
傷口には食中毒の要因となる黄色ブドウ球菌が付いている恐れがあるため、手に傷があるときは調理作業を担当しないように注意しましょう。手袋をしても通常時より高リスクであることに留意し、自己申告することが求められます。
食品工場で厳しい服装ルールが設定されているのは、衛生管理が法律や条例で決められているからです。主な衛生管理として「一般的な衛生管理」と「HACCP(ハサップ)」を紹介します。
「一般的な衛生管理」は、食品を扱う上での基本的な衛生管理であり、後述するHACCPの前提となるものです。施設や設備の衛生管理はもちろん、責任者の選任や害虫・害獣対策などを含む14の基準を設定します。
また、一般衛生管理に基づく具体的な計画と手順(管理プログラム、PRP)に落とし込み、適切に実行する必要があります。
HACCP(ハサップ)は、食品の汚染や異物混入などの危害要因を予測し、適切に管理することでリスクを低減させる衛生管理方法です。1993年にCodex(コーデックス、国際食品規格)委員会が策定した7原則12手順に準拠します。
以下の記事ではHACCPの詳細と一般的な衛生管理の14の基準を解説しています。ぜひ参考にしてください。
食品工場では衛生管理に関する法律や条例に基づく、適切な服装と身だしなみが求められます。
体毛の落下をはじめとする異物混入、飛沫や肌の常在菌による食品の汚染を防ぐ工夫が施された衣服を着用しましょう。作業内容や施設によっては、制電機能やゾーニングに役立つカラーバリエーションのアイテムも役立ちます。
服装ルールの遵守は、食品の安全だけでなく、働く人の安全と信頼につながります。この記事で解説したポイントを参考に、服装と身だしなみを整え、衛生的な環境を維持しましょう。