夏場の溶接現場は非常に暑くなります。空調服(※)を着ることで涼しく快適に作業できますが、火を扱う現場では空調服の使用に危険が伴うこともあります。
この記事では、過去に実際に発生した事故例をもとに、溶接作業中に安全に空調服を着用するための注意点と適した空調服の選び方について詳しく紹介します。
(※)空調服®は株式会社空調服の登録商標。一般的な名称はファン付き作業着。本記事では便宜上、ファン付き作業着の意味で「空調服」と記載しています。
2021年7月、アーク溶接中に火花が空調服のファンから内部に入り、作業者が重度の火傷を負う事故が発生しました。
狭い足場で作業していた際、防炎シートに跳ね返った火花がファンに入り込み、インナー(肌着)に着火して燃え広がったとみられています。インナーは綿60%、ポリエステル35%、ポリエチレン5%でした。
空調服の取扱説明書には、溶接などの火気取扱い作業時にはファンに金属製のフィルターを使用するよう注意書きがありましたが、事故当時は使用されていませんでした。
参考:【災害事例】ファン付き作業服の正しい使用を 溶接火花で重症火傷
事故が起こったとはいえ、溶接作業中に熱中症対策として空調服を着用すること自体に問題があるわけではありません。ここでは、火花が出る作業や現場で空調服を使用する際のポイントについて解説します。
火気作業の際には、ファンに金属フィルターを装着しましょう。空調服メーカーの取扱説明書でも、火気作業には金属製フィルターを装着するよう指示されています。金属フィルターをファンに取り付けることで、火花を吸い込むリスクを軽減できます。
上記の事故事例では、金属フィルターを使用していなかったことも一因とされています。ただし、金属フィルターを装着しても火花の吸い込みを100%防ぐことはできないため、使用時には引き続き注意が必要です。
溶接作業など火花が飛散する現場では、難燃素材または綿のウェアがおすすめです。
難燃素材にはモダクリル・アラミド・難燃ポリエステルなどがあります。燃えないわけではありませんが、他の素材と比べると着火しにくく、燃え広がりにくいことが特徴です。難燃素材のウェアは火を扱う現場では必須といえます。
綿は燃えますが、通常のポリエステルと比べると熱に強く、火花が飛んでも穴が開きにくい素材です。溶けた繊維が肌に付着して重症化するリスクを軽減できます。ただし、着火リスクが高い現場には不向きです。
空調服のウェアだけでなく、中に着用するインナーの素材にも注意が必要です。上述の事故事例では、難燃・耐熱素材のインナーではなかったため、着火後にすばやく燃え広がり、重症化したものと考えられます。
金属フィルターを装着しても完全に火花の侵入を防げるわけではありません。ウェアと同じく難燃素材が最適ですが、少なくとも綿100%のインナーを選ぶのがおすすめです。
ここでは、溶接作業におすすめの空調服のウェアを紹介します。
難燃シャツや難燃性のある作業ウェアなど、現場指定の服の上から空調服を着るなら、重ね着しやすいベストがおすすめです。長袖よりも軽量で、肩や肘が動かしやすいというメリットもあります。
長袖タイプの空調服は、腕全体まで風が巡るため、より涼しさを感じられるのがメリットです。ただし、袖が手首まで膨らむので、作業内容によっては邪魔になったり、動きにくさが気になったりすることもあるでしょう。
溶接作業中に空調服を使用する場合は、火の粉の侵入を防ぐため、金属フィルターを装着することが重要です。また、着火リスクが高い現場では、モダクリル・アラミド・難燃ポリエステルなどの難燃素材の空調服をおすすめします。
なお、金属フィルターでも完全に火の粉を防ぐことはできません。万が一にも火花が内部に侵入したときに備えて、インナーも難燃素材または耐熱性のある綿100%のものを選ぶようにしましょう。