作務衣は動きやすく和テイストが魅力のウェアです。和の雰囲気を重視する飲食店や旅行業のユニフォームとして採用されています。しかし、甚平や法被など見た目が似ているウェアもあるため、商品選びの際に迷ってしまう人も多いのではないでしょうか。
本記事では、作務衣の定義とメリット・デメリット、甚平や法被との違いを詳しく解説します。後半では飲食店や旅行業で選ばれる作務衣の特徴も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
作務衣の読み方は一般的には「さむえ」です。ただし、「さむい」でも誤りではないとされているため、地域やメーカーによって読み方が異なる可能性があります。
「衣」を「え」と読むのは呉音(ごおん)と呼ばれる、仏教用語の読み方に由来します。
呉音は中国の魏・呉・蜀の三国時代に生まれ、南北朝時代は南朝の読み方として浸透していました。呉音では「衣」を「え」と読みます。一方、北朝で用いられた漢音では「衣」を「い」と読みます。
日本に仏教を伝えたのは朝鮮半島の百済で、百済では南朝の読み方が主流でした。こうした背景があるため、日本の仏教に関する用語では呉音読みが一般的です。
作務衣は禅宗の僧侶の労働(作務)の際に着用する作業着です。
作務衣の登場以前は着物で作業していましたが、清掃や炊事をおこなうには動きにくさがネックでした。そこで、着物の袖を絞って丈を短くした長作務衣(ながざむえ)が生まれます。
その後、第二次世界大戦時にモンペ(ズボン)と合わせるスタイルが登場し、着物部分を上衣とした短作務衣(たんざむえ)が誕生します。この短作務衣とズボンを合わせるスタイルは、現在の作務衣と同様です。動きやすいため、農作業着・活動衣として広まりました。
作務衣は上衣と長ズボンをセットで着用する、通年用の作業着です。
作務衣の上衣は着物のような前合わせですが、帯を使用せず、内側にある四つ紐で合わせを留めるのが特徴です。
長袖・腰丈が基本で、袖は絞れるタイプのものもあります。なお、飲食店向けに作られた作務衣では、利便性の観点から8~9分袖のものが多く見られます。
長ズボンはモンペが原型であることから、絞れる裾とゆったりしたシルエットが主流です。
次に作務衣の持つメリットとデメリットについて詳しく解説します。
先述のとおり、作務衣は動きやすさを重視して作られたものです。ゆとりがあるため、腕の上げ下ろしや屈伸運動でも、布のつっぱり感がなく快適に動けます。
生地は綿が定番で、綿は通気性・吸汗性・保温性を兼ね備えているため、一年を通して快適な着心地です。冬は1枚だと寒い可能性もありますが、ゆとりがあるためインナーを重ね着できます。
また、四つ紐を結ぶ長さで多少はサイズ調整できるため、幅広い体格に合わせられるのも作務衣の魅力です。
コックコートや作業着と比べると薄手で、四つ紐や絞り紐などの布のパーツもあるため、耐久性は高くありません。かすれやほつれが目立ってきたら買い替えましょう。
また、真夏の屋外など、高温の環境では快適性が劣ります。通気性や吸汗性はありますが、長袖・長ズボンなので暑いと感じることがあるでしょう。涼しさを重視するなら、後述する甚平が適しています。
作務衣のデメリット3つ目は、フォーマルな場に向かない点です。もともとが作業着であるため、格式のある場には適していません。飲食店や旅館などで取り入れる場合は、フォーマルなイベント用のユニフォームを別途備えておきましょう。
作務衣は通年用ですが、甚平(じんべい)は夏向きです。袖やズボンの丈、機能性に違いがあります。
作務衣が長袖・長ズボンであるのに対し、甚平は半袖・半ズボンです。江戸時代に下町の人々の間で広まり、大正時代に今の形になったといわれています。昔から夏の衣服として親しまれていたようです。
甚平は夏向けということもあり、生地の素材には通気性と涼感に優れた麻や肌離れの良い綿楊柳が使われる傾向にあります。熱のこもり、汗・湿気による不快感を軽減できる素材です。
また、袖付け(胴と袖のつなぎ目)をタコ糸で編み、空気の通り道を作った甚平もあります。飲食店向けの甚平では安全・衛生面の観点から稀ですが、ファッションとしての甚平ではこのタイプが主流です。
作務衣はトップスとして1枚で着用できますが、法被は上着(羽織)であるため、インナーを着用する必要があります。また、作務衣は作業用や飲食店のユニフォームとして、法被はお祭りや販促などのユニフォームとして用いられるウェアです。
法被のはじまりは、胸紐付きの単(ひとえ)の衿を折り返して着る、江戸時代の武家の着用スタイルといわれています。
町人にも注目されたスタイルですが、身分の差を明確にするために、町人には衿付きの法被の着用が禁止されたため、衿を返さない法被風の衣服が生まれました。これが現在の法被の原型です。職人の正装や祭りの衣装、町火消のユニフォームとして定着しました。
現代の法被は江戸時代の町人スタイルから続く衿無しスタイルが基本で、前合わせを留めるための胸紐もありません。ゆったりとしたつくりで、体格やインナーの厚さを選ばず羽織りやすいウェアです。
なお、法被本体に留め具となる紐はありませんが、帯を締めるスタイルもあります。祭りのお神輿をかつぐときなど、ひっかけが気になるときは帯を使いましょう。
作務衣・甚平・法被は特徴の異なる別のウェアですが、商品名においては線引きがあいまいです。半袖でも「作務衣」と表記しているものもあれば、四つ紐付きながら「法被」と称している場合もあります。
商品を検索する際は、名称だけで絞り込むと候補が少なくなる可能性があります。次のリンク先では、作務衣・甚平・法被を幅広く掲載しているので、ぜひご覧ください。
最後に、飲食店や旅館・ホテルで取り入れられている作務衣を紹介します。
寿司店、日本料理店では白や紺の作務衣が選ばれる傾向にあります。白は清潔感をアピールでき、紺は落ち着いた印象を与えるカラーです。
居酒屋では黒や茶色、紺の作務衣が選ばれる傾向にあります。油汚れや水濡れが目立ちにくいため、ホールスタッフのユニフォームとしても有用です。
旅館では明るい茶色やベージュなど、温かみのある色の作務衣が選ばれる傾向にあります。親しみやすさやリラックス感を演出しやすいため、おもてなしのシーンにマッチするでしょう。
作務衣は禅宗の作業服を由来とする、動きやすいウェアであることがわかりました。長袖・長ズボンが基本ですが、通気性や吸汗性に優れているため、1年を通して快適に着用できます。和テイストの飲食店や旅行業のユニフォームとして取り入れやすいウェアです。
今回ご紹介した商品も含め、動きやすさと和テイストが魅力の作務衣を、ぜひユニフォームとして取り入れてみてください。
ただし、商品を探すときは「作務衣」だけでなく、「甚平」や「法被」も候補に入れましょう。商品名に関しては明確な線引きがないためです。